キティ・グリーン『アシスタント』(2023.7.5@元町映画館)

senlisfilms.jp

 

《解説》

2017年にハリウッドを発端に巻き起こった「#MeToo運動」を題材に、憧れの映画業界が抱える闇に気づいた新人アシスタントの姿を通し、多くの職場が抱える問題をあぶり出した社会派ドラマ。

ジョンベネ殺害事件の謎」などのドキュメンタリー作家キティ・グリーンが初めて長編劇映画のメガホンをとり、数百件のリサーチとインタビューで得た膨大な量の実話をもとにフィクションとして完成させた。名門大学を卒業したジェーンは、映画プロデューサーを目指して有名エンタテインメント企業に就職する。業界の大物である会長のもとでジュニア・アシスタントとして働き始めたものの、職場ではハラスメントが常態化していた。チャンスを掴むためには会社にしがみついてキャリアを積むしかないと耐え続けるジェーンだったが、会長の許されない行為を知り、ついに立ちあがることを決意する。

映画.comより

 

ジェーンの置かれた状況が自分自身と重なり、とにかく全編、みているのが辛かった。

映画業界の会長のアシスタントとして誰よりも早く出社し、他人のために準備をし、細やかな「ケア」労働をするが、誰にも感謝されない。名前さえ呼ばれない。

 

映画はジェーンのある1日の仕事を映し出しており、会議の準備・後片付けや出張の手配、会長の薬からその妻からの問い合わせへの対応など多岐にわたり、1日にこれだけの業務をこなしているのかと驚くほど。アシスタントは辛い。

 

会議のあと、散らかり放題となった部屋の後片付けをするジェーンに対し、「清掃員を雇っているからそんな仕事はしなくていい」とかけられた言葉にもハッとさせられるものがあった。

ジェーンはよく気が付いて、仕事熱心なのだ。それゆえ、業務過多になる。

 

同僚のアシスタントは2人いるがどちらも男性で、典型的ホモ・セクシュアルな人間関係を築いている。おそらく悪気はないのだけれど、そこに割って入ることはできない。

 

ハーヴェイ・ワインスタインをモデルにした会長は典型的なハラスメント体質で、ジェーンに対して厳しいことを言ったかと思えば、期待しているからそうしているのだとも言う。

名門大学を卒業し、狭き門を突破して現在の職に就き、映画プロデューサーを目指すジェーンにとって、この会長の態度ではすっぱりやめられないのも当然だ。

 

映画で描かれる1日は、ジェーンにとっては日常なのだろう。

しかし、ある大きな問題が起こる。会長権限で雇われた若い女性が会社に訪ねてきて、同じアシスタントとして雇われたジェーンにはなかった待遇を受ける。

女性をホテルへ送るジェーンだが、会長の目的、つまり仕事ではなく、性の対象として女性を雇ったのではないかと疑いを持つ。

 

会社の人事部に相談に向かうジェーンだが、そこで同部の男性に全て否定された上、君は会長の好みではないから大丈夫だとまで言われてしまう。

巨大な権力構造の下で起こる暴力を隠蔽する構造。

 

ジェーンの置かれた状況と自分が重なったと書いたが、私はここまでの状況にはない。

ただ、会社・組織の中で少しずつ心を削られていく状況はよくわかる。悪気はなくとも、ジェーンの同僚男性のような態度の人間は多くいる。私自身、逆に、人を傷つけている場合もある。

 

あまりにジェーンにとって救いがないので(両親は味方だが、映画業界に就職した娘を誇りに思っているようだ。相談はしづらいだろう)、『SHE SAID その名を暴け』を観たくなった。

 

映画とは直接関係はないが、私も日本映画学校で学び、一時は映画業界への就職を考えていた身だ。

学生時代はジェンダー平等なんて言葉も知らなかったけれど、なんとなく男性中心の業界に違和感を持ち、映画業界の就職はやめた。

 

編集ゼミだったので編集技師や、映画の予告編会社(当時、おもに2つの会社が予告編をつくっていると言われていた)の話を聞く機会があり、「お茶汲み」について聞いた記憶がある。

「下っ端がやるということではなく、アシスタントは仕事が一人前にできるわけではないので、みんなが快適に仕事をするための一環としてのお茶汲み」だというのが答えだったと記憶している。

 

アシスタントに求められるのはとにかく、ケア労働なのだ。

しかしアシスタントだからそれをやって当たり前ということではなく、その仕事に対しての感謝の言葉の一つでもあれば、また違ってくるだろう。

ジェーンのように名前も呼ばれず、感謝もされずに、淡々とケア労働をこなし続けることはできるだろうか。

 

(ちなみにその予告編制作会社は入社後3ヶ月はインターン扱いで無給と公言しており、当時も今もおかしいとは思っている)